「鹿の惑星」 最終章 ”侵略”

鹿の話を続けてきましたが、今回が最終回となりました。「見た」⇒「ぶつかった」⇒「撫でた」と接近遭遇の度にその内容は濃くなってきましたが、今回は接近遭遇の話ではありません。かなり、社会問題的な内容ではないかと思っています、過疎が進み限界集落となっていく山間部の集落、そこで繁殖が進む害獣、駆除されることもないため人里で餌をあさり、減りゆく住民をさらに追い詰めていきます。

先回、実家に戻ったときのことです。実家の裏の果樹園は潰して平地になっていました、梨の木があったのですが、父が倒れ世話をすることもできなくなって木はすべて切られていました。果樹の棚がある時には見晴らしがきかず、遠くまで見えなかったのですが、何もなくなってしまうとかなりの広さがあることがわかります。視界の遠くには、見慣れないない別荘風の家が見えました。

工務店を経営していた叔父がリタイアして、奥の土地を借りてセカンドハウスを建てたと母が説明してくれました。叔父は父方の親戚で8人兄弟の一番下です、父は7男でした。大工の棟梁らしくよく笑い、よく酒を飲む人です。週末には軽トラで別荘にやって来るそうです。

帰省した日が土曜日だったので、叔父は昼過ぎには別荘に来ていました。その日の夕方、久しぶりに叔父を訪ねてみました。髭をはやし恰幅よく太った叔父は笑顔で迎えてくれて新築の別荘を案内してくれました。一階は間仕切りのない広い空間になっており、薪を使う大きな暖炉があって宴会にはもってこいの作りになっていました。二階は数室の寝室と角が風呂になっており、ガラスをふんだんに使った開放的な風呂はずっと入っていられそうな感じです。

夕方、二階のベランダから下に広がった果樹園の跡地を見ながら叔父はいいました。「ここば、鹿公園にしようち思うとるとたい。餌をそこらへんに撒いて餌付けもしよるとぜ」叔父は、別荘の前に餌を撒いて鹿を集め、「鹿公園」にして入場料を取る壮大な妄想を抱いていました。

その日は、そのまま実家に戻って泊まったのですが、母に「鹿公園」の話をすると「叔父さんが鹿に餌ばやるけん、集まって来るったい。迷惑な話したい。」母は嫌がっているようでしたが、本当に鹿が集まって来るらしいことがわかりました。

翌朝、早くに目が覚めた私は散歩がてら叔父の別荘に行ってみました。開けた畑の跡は叔父の別荘の前まで見通すことができます。叔父の別荘の前にはたくさんの黒い影がうごめいていました。近づいていくと、確かに鹿です。しかも一匹、二匹ではありません、本当に数十頭の鹿が叔父の別荘の前で餌を食べていたのです。近づいた私に全部の鹿が振り向きました、夜が明けきれない薄明かりの中で無数の光る眼がこちらに向けられました。私はゾッとしました、鹿は間違いなく”侵略”を始めたのです。

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